第9章 看病七日目 岐路
見慣れない風呂敷包みを渡された。
「??」
受け取るとずしりと重みがある。
「中を見てもよろしいですか?」
謙信「ああ」
包みを開けると中から出てきたのは美しい反物だった。
「わあ、凄く素敵な反物ですね!」
謙信「俺が贔屓にしている店のものだ。気に入ったか?」
「素敵……ありがとうございます」
真っ白な雪景色にひと雫だけ春を落としたように、光沢のある白い生地にところどころ淡いピンク色が混ざり梅の柄が入っている。
布を少し動かすだけで梅の花を縁取っている金糸や銀糸が輝いた。
「なんて繊細な染め方……」
染め方も柄の入れ方も丁寧な仕事で作られていて、私のお給金では買えないくらい高価なものだ。
謙信「国に帰るお前の門出を祝って縁起物の梅を選んだ。
お前自ら好きな物を作り、好きなように身に付けろ」
「っ、ありがとうございます」
細やかな配慮に感動して言葉に詰まった。
もっと感謝の言葉を告げたいのに、口を開いたら言葉が震えそうでできない。
選んでくれた反物に視線を落とした。
謙信「……佐助を置いて国へ帰るのか?」
好奇心と言うよりも心配してくれているのだろう。
謙信様は気づかわしげな表情をしていた。
「いつまでも偽りの姫を演じていられませんし、私が居る場所はここではないんです。
あちらには家族も居ませんが…帰らなくてはいけないんです」
納得できないのか、謙信様の瞳に鋭さが加わった。
謙信「家族が居ないなら、なおさら恋仲の男と離れる必要はなかろうに。
偽りの姫と言うが、お前の名は全国に知れ渡り最早誰も偽りとは思うておらぬ。
針子という仕事を持ち、信長達と良好な関係を築いているお前が、何故そうも国へ帰りたがるのだ?」
尋問を受けた夜以上に鋭く、つっこんだ質問の仕方だった。