第9章 看病七日目 岐路
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明日越後に帰ると言われ、お城から借りてきた物を急いでまとめることにした。
ここに持ってきた時と同じ風呂敷にそれらを包んで部屋の隅に置いた。
残っていた食材は佐助君がどうにかすると言ってくれたのでお任せして竈(かまど)や土間を掃除していく。
佐助君は食材を持って出かけていき、謙信様は囲炉裏の片づけをしている。
「………」
帰ると言われた時に胸にポチっとあいた小さな穴は、時間が経つにつれて大きく広がり、そこから寂しさと悲しさが溢れて心を暗く塗りこめていく。
暗い気持ちを振り払うように一心に掃除をしたものだから、お昼前には全部の掃除が終わってしまった。
いつも囲炉裏にかけてあった水の入ったお鍋は外され、佐助君が寝ていた布団は畳まれて寝室に収めた。
使った雑巾が干してあるだけで何もない、寂しい部屋になった。
ここで過ごした一週間はあっという間だった。
一日として平凡な時はなく、毎日何かが起こり、発見し、楽しさと切なさが合いまっていた。
そっと目を閉じる。
(明日からときめくこともなくなるんだ)
この一週間で見た謙信様の姿が浮かぶ。
一緒にいるうちに心の内を見せてくれるようになったし、時々笑いかけてもくれた。
(うん、充分だ。こんなに一緒に居られただけでも奇跡なんだから)
いっぱい思い出ができたんだから…
大事に現代へ持ち帰ろう。
謙信「………終わったか?」
耳に響く低く心地良い声に、胸が締めつけられた。
(この声が聞けるのもあと少し…)
なんだか息がうまく吸えない…苦しい。
「はい」
謙信「なら少し座れ。話がしたい」
「話ですか?わかりました」
すっかり片付けられてしまった囲炉裏端に座る。
座り位置が決まってしまうくらいにはここで何度も話をした。
火の気がない囲炉裏の代わりに私の座る場所には火鉢が置かれていた。
さりげない心遣いも今日で最後だと思うと…
謙信「どうした?今日は随分と静かだな」
「やっぱり寂しいなと。佐助君には悪いですが、ここで過ごした時間はとても楽しかったので…」
謙信「……俺もお前が居てくれたおかげで随分と助かった。これは礼だ」
見慣れない風呂敷包みを渡された。