第8章 看病六日目 道ならぬ恋
「それに、それに!辛い恋を知っているからこそ、次に恋人ができたらそれはそれは大事にして、幸せにしてくれる方だと思います!」
頬を恥ずかしそうに赤く染め、はっきりと言い切った。
謙信「舞……」
(そんなふうに思ってくれていたのか……)
舞の想いを初めて知った。
素直に嬉しい。
脅しつけ睨みつけ、怖い想いをさせた自覚はある。
にもかかわらず舞は嫌うどころか、良いところを見つけ探してあててくれた。
細い手にそっと手を握られた。
懸命に励ます姿は健気で愛らしいのだが、俺達の気持ちは根本的にすれ違っていて交わることはない。
「今まで謙信様は戦まっしぐらに生きてきたんですから、ちょっとくらい女の人をかまっても良いじゃないですか。
戦以外に楽しみを感じないというなら、恋人になった方と一緒に楽しめるものを見つければいいと思うんです。
そうやって人並みな幸せを手に入れて、とびっきり幸せになって欲しいです」
謙信「……」
握られた手を強く握りしめた。
お前が気分良さそうに歌うから、もっと聞きたいと思った。
お前が楽しそうに絵を描いているからそれを見たいと思った
お前が楽しそうに餃子を作っていたから、俺も作りたくなった。
たった数日一緒に居ただけで俺の心を癒してくれた。繰り返し心につけた自傷は無数にあり、誰も手を付けられない状態だったのに。
満足に言葉も交わさぬうちに惹かれるとは……己を救う唯一の存在だと本能がはたらいたのかもしれない。
戦に生き、死ぬ運命(さだめ)だと思っていたが、舞と出会い、生きたいと思った。
(とびっきり幸せにと言うならば、俺はお前とそうなりたかった)
顔を覆いたくなるほどの絶望、喪失感。
気付けば舞の楽しみが俺の楽しみに変わっていたのに。