第8章 看病六日目 道ならぬ恋
「………恋……え?恋?謙信様が?
え……!?」
ついには絶句し呆けた顔で見返してきた。
その反応は当然だ。女嫌いで通っていた俺が恋などと、すぐには受け止められないだろう。
それに俺の心が舞に向いているなどと思いもよらないだろう。
人の女に懸想するなど、あまりに愚かしい。
だが自覚した想いを吐き出したくてたまらない。
名は伏せたまま心中を吐露した。
謙信「傍に居ると一瞬たりとも胸が落ち着かず、気がつけば目で追っていた。
姿を見ない間は頭から離れず…四六時中傍に置き守りたいと……。
時折胸が痛み、締め付けられ苦しい時もあった。おかしいと思っていたが俺は気づかぬうちにその女を好いていた」
心優しい舞は俺の話に胸を痛めたのか、切ない顔をしている。
「その方が結婚されていないのなら打ち明けてみてはいかがですか?」
謙信「いや、俺より恋仲の男と一緒になった方が幸せになろう。
俺は…女にかまっている暇などない」
思ったことを隠すことなく『可愛い』と言ってくれる男の方が良いだろう
国から遠く離れているなら言葉や習慣を共有できた方が寂しくないだろう
戦に生を感じるような病んだ男ではなく、真っ当な考え方をもつ佐助の方が良かろう
仏のように美しい心を持つ舞に俺は相応(ふさわ)しくない。
手をとりたいと心が叫んでいても拳を作って耐えた。
「そ、そんなことないです。
謙信様は第一印象はちょっと怖くて、素っ気なくて、つれなくて、わかりにくい方ですけど…」
謙信「随分なことを言ってくれるな」
慰めるどころか、けなし始めるとは良い度胸だ。
お前は俺のことをそんなふうに見ていたのか。
「けど!続きがあります。
義理堅くて筋が通って真っ直ぐなところとか、不器用だけどとっても優しくて思いやりがあるところとか、密かに料理ができちゃったり、部下のために忍者になって敵陣に忍び込んだり…
こんなにいっぱい魅力であふれた方は他には居ませんよ?」
(…?)
沈んだ気持ちがふわふわと浮上してくる。
「それに謙信様は気にもかけていないでしょうけど、その…見目だって、とても素敵だと思いますし、じっと見つめたら卒倒しちゃう女の人が続出すると思います!」
俺の長所をバラまくように述べて顔を赤くしている。