第8章 看病六日目 道ならぬ恋
国へ帰ると言っているが、その日までは佐助の女だ。
例え佐助と別れようと、国へ帰ってしまえば二度と会えぬ予感が拭えない。
(俺の入りこむ隙など一瞬たりともない)
謙信「お前の心の内が聞けて良かった……が、俺はやはり手は出さぬ。
思い合っている二人を俺の勝手でかき混ぜる訳にはいかん。
女も恋仲の男も知らぬ仲ではないゆえ、後々面倒になろう」
もう直ぐ国へ帰るお前を色恋沙汰に巻き込みたくない。
佐助と過ごす残り僅かな時を穏やかに過ごして欲しい。
何故唯一の女がお前だったのだろう。
人の女でなければ何のためらいもなく手を取るのに。
国へ帰るなと腕の中にとじ込めて引き留めるのに。
「恋した方はどんな人なのですか?」
何も知らない舞が聞いてきた、答えるふりをして愛らしい顔を眺める。
(お前のことだ。舞…俺はお前の全てが愛おしい)
自覚したところで叶わない恋に、胸が痛み、心に鮮やかな傷がついた。
謙信「何をしていても愛らしくてならない女だ。それ以上は言えぬ」
(このくらいなら言っても構わないだろう?お前はそこに居るだけで愛らしい)
「それ、わかります」
何故か切羽詰まった声で舞が言った。
追い詰められ、今の俺のように苦しみに耐えている顔だ。
「何をしていてもぜーんぶカッコイイ人が居るんです。
息を吸っているだけでもかっこいいんです…もう、重症でしょう?」
(ああ、お前はそれ程に佐助を想っているのに国へ帰ろうとしているのか)
余程の事情があるのだろう。聞いても答えてくれないだろうが…
謙信「ああ、俺もお前も重症だな。お前にそう思われる男は果報者だ」
「ふふ、謙信様に想われる方も幸せ者ですね」
苦しそうに笑った顔は抱きしめたくなるくらい痛々しかったが、佐助とのことは俺には手出しができない領域だ。
無暗に手を出したら…箍が外れてしまう。
かつてないほど胸が締め付けられても打つ手はなく、俺は必死に耐えるしかなかった。