第8章 看病六日目 道ならぬ恋
ここ数日理解できなかった行動、思考。病と勘違いしていた胸の痛み。
原因がわかり瞬時に体が熱くなった。
抑える間もないほどに全身に熱が回った。
(駄目だ、舞に悟られてはならぬ)
咄嗟に片手で顔を隠した。
(舞は佐助のものだ)
「ど、どうしたんですか。謙信様」
慌てる声は聞こえていたが答えられなかった。
(いつからだ?)
己の不可解な行動はいつから始まったか。
時を遡って思い出し、探る。
舞が看病に訪れるようになってから?いや違う。
安土城に忍び込んだ時、すでに俺の行動はおかしかった。
どんどん記憶を遡る。
廃寺で顔を背けられたのが不満で、無理やり顔の向きを変えさせた。
暗いからと大通りまで手を引いてやった。
(もっと前だ。もっと……)
はっと思いあたった場面があった。
持ち主から不意に切り離された数本の髪…
空中に舞った艶やかな薄茶色の髪…
妙に印象的だった。
蜂を切ったあの瞬間は時が止まったように見えた
(最初からだ)
普段なら蜂ごときに怯える町娘など興味ももたないはずだった
佐助の知り合いだとしてもだ。
助けたのは気まぐれだったとしても、舞の髪に刀が触れ、時が止まったようなあの刹那の時から、
俺は舞に惹かれていたのだ。
謙信「……やっとわかった」
己の声とは思えない、熱を含んだ掠れ声がこぼれた。
謙信「舞…」
「は、はい」
(ああ、簡単なことだった)
謙信「俺は……気づかぬうちに」
(お前が愛らしいと思っていたのだ。ずっと……ずっと前から)
だが…、この想いは知られてはならない。
「気付かないうちに、どうされたんですか?」
謙信「……道ならぬ恋をしていた」
丸い目が見開かれ、こぼれんばかりだ。
信じられないのか「恋」を連呼している。