第8章 看病六日目 道ならぬ恋
(謙信目線)
昼餉の後、佐助は身体を慣らすために出かけていった。
これみよがしに桃色の雰囲気を出してから出かけていったが、佐助は以前からあのように人目を憚らず睦み合う男だっただろうか。
とにかく無性に腹立たしい想いをしたのは確かだ。
部屋に冷たい風が入り込んできた。
見ると何も羽織らず外を覗く舞が居た。
謙信「何をしている。冷えるだろう」
「佐助君が戻らないので心配で……」
謙信「佐助なら大丈夫だ。久しぶりに外の空気を吸って足を延ばしているだけだろう。
それよりお前の方が白い顔をしている」
風邪をひいては大変だ。
囲炉裏端に座らせ、外套を貸してやる。
舞は外套を胸の前で合わせると、嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。この外套、とても暖かくて首元のモフモフも気持ちいいです」
袖が長くて手が出ないようだ。それ程この女は、
謙信「お前は……小さいな」
外套にすっぽりと包まれ、寒さに体を震わせている様子は佐助ではないが守ってやりたくなる。
ますます城に居る兎のようだと思う。
兎達にするように頭を撫でていると、舞の表情にほんの一瞬だけ憂いがはしった。
恋仲でもない男に触れられるのは嫌だっただろうか?
胸が針で刺されたように痛んだ。
「そ、そうですか?標準的な背格好だと思いますが…。
それよりお昼ご飯は口に合いましたか?天ぷらで胸やけしていませんか?」
感情をねじ伏せているような顔をしている。
(特別動揺させることはしていないというのに、一体どうした?)
謙信「心配するな、お前が作ってくれた料理はどれも珍しく美味しかった」
「よ、良かったです」
安心しながら動揺している。
わかりやすすぎて……何故か胸が締めつけられた。
(まいったな、俺の病は重症か)
(生きたいと願った矢先に死ぬのだろうか。ならば舞を今のうちによく見ておこう)
何故そのような思考に行きつくのか、この時まで俺はわかっていなかった。
心に芽吹いたものの正体を。