第1章 触れた髪
楽しい時はあっという間に過ぎて、日が傾いてきた。
夕焼けで辺りはオレンジに染まり、先程の紅葉とはまた違う美しさを見せてくれている。
(ああ、楽しいのにそろそろ帰らないと…)
日が落ちる前に帰らなければ、秀吉さんや三成君に心配をかけてしまう。
二人が門の前でソワソワ帰りを待ってくれているのが目に浮かぶようだ。
名残惜しいけれど、そろそろお暇しなくてはいけない。
謙信「主人、勘定だ」
何も言っていないのに、タイミングよく謙信様が席を立ったので、びっくりしてしまった。
そんな私を見て、
謙信「お前は純粋であるのと同時に『単純』だ。
顔に出ていたぞ。『帰らなくてはいけない』と」
(私の方を見てなかったのに、どうやって察したのかな。凄いな…)
代金を店のご主人に渡している謙信様を見る。
思いがけなく楽しく過ごせた時が終わってしまう…。
寂しさを胸に押し込めて、私は席を立ったのだった。