第8章 看病六日目 道ならぬ恋
「けど!続きがあります。
義理堅くて筋が通って真っ直ぐなところとか、不器用だけどとっても優しくて思いやりがあるところとか、密かに料理ができちゃったり、部下のために忍者になって敵陣に忍び込んだり…
こんなにいっぱい魅力であふれた方は他には居ませんよ?」
(あれ?)
「それに謙信様は気にもかけていないでしょうけど、その…見目だって、とても素敵だと思いますし、じっと見つめたら卒倒しちゃう女の人が続出すると思います!」
(あれれ?止まんない)
元気づけるつもりだったのに、謙信様の好きなところを言い始めたら言葉が洪水のように溢れてきた。
「それに、それに!辛い恋を知っているからこそ、次に恋人ができたらそれはそれは大事にして、幸せにしてくれる方だと思います!」
謙信「舞……」
切れ長の瞳がまばたきを忘れたように見開かれている。
「だから自信を持ってください。気持ちを伝える前から諦めないで……」
いつの間にか謙信様の手を握っていた。
「今まで謙信様は戦まっしぐらに生きてきたんですから、ちょっとくらい女の人をかまっても良いじゃないですか。
戦以外に楽しみを感じないというなら、恋人になった方と一緒に楽しめるものを見つければいいと思うんです。
そうやって人並みな幸せを手に入れて、とびっきり幸せになって欲しいです」
謙信様に手が痛いくらい握り返された。
「謙信様の想いが届かなかった時はやけ酒に付き合いますから。とにかくモヤモヤしてるなら当たって砕けてきてください」
お相手が一途な方なら、たとえ謙信様に愛を告げられても断る可能性だってあるだろう。
その時はその時だ、一緒にお酒を飲むくらいならできる。
謙信「砕けてこい、とはお前も大概だな。だがそうか…お前は俺のことをそう見ているのか」
しかめっ面をしていたかと思うと、頬を緩めたり、珍しく謙信様の表情が忙しい。
謙信「お前の心の内が聞けて良かった……が、俺はやはり手は出さぬ。
想い合っている二人を俺の勝手でかき混ぜる訳にはいかん。
女も恋仲の男も知らぬ仲ではないゆえ、後々面倒になろう」
はかない笑みが痛々しい。
「そうですか……」