第8章 看病六日目 道ならぬ恋
「………恋……え?恋?謙信様が?
え……!?」
絶句してしまった。あっけにとられて熱っぽい眼差しを見返す。
最初から叶わない相手だってわかっていたけど、まさか誰かを想っていたなんて…
今だけは謙信様の傍に居る唯一の女だと浅ましくも思っていたのに…間違いだった。
(これで諦めもつくってものだよね)
でも、だ。
気になるのは、ただの片思いじゃなく『道ならぬ恋』というところだ。
謙信様に苦しい恋はして欲しくない。
できればハッピーな恋をしてとびっきり幸せになって欲しい。
「つかぬことをお聞きしますがお相手はご結婚されているのですか?」
謙信「結婚?」
「結婚は祝言?のことです。謙信様の想い人は人妻なのですか?」
謙信「いや、祝言はあげていないが仲睦まじい恋仲の男が居る」
謙信様が苦しげに息を吐いた。
謙信「傍に居ると一瞬たりとも胸が落ち着かず、気がつけば目で追っていた。
姿を見ない間は頭から離れず…四六時中傍に置き守りたいと……。
時折胸が痛み、締め付けられ苦しい時もあった。おかしいと思っていたが俺は気づかぬうちにその女を好いていた」
好きな人が好きな人の話をしている。
伊勢姫様の話を聞いた時も胸は痛んだけど、それ以上に痛む。
ちょっと、いやかなり切ない。
(でも……なんとかしてあげたい)
「まだその方が結婚されていないのなら打ち明けてみてはいかがですか?」
謙信「いや、俺より恋仲の男と一緒になった方が幸せになろう。
俺は……女にかまっている暇などない」
吐き捨てた言葉に……嘘が滲んでいた。
「そ、そんなことないです。
謙信様は第一印象はちょっと怖くて、素っ気なくて、つれなくて、わかりにくい方ですけど…」
謙信「随分なことを言ってくれるな」
剣を含んだ眼差しに、顔の前で両手を振って否定する。