第8章 看病六日目 道ならぬ恋
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昼食の片づけを終えて一度外の様子を見に行った。
羽織を着ないで外に出たので冷たい風が身に染みた。
せっかくお蕎麦を食べて温まっていた身体が急激に冷えていく。
(佐助君…すぐ戻るって言ってたのに大丈夫かな)
戻ると謙信様が歩み寄ってきた。
謙信「何をしている。冷えるだろう」
「佐助君が戻らないので心配で……」
謙信「佐助なら大丈夫だ。久しぶりに外の空気を吸って足を延ばしているだけだろう。
それよりお前の方が白い顔をしている」
促されて草履を脱ぎ、囲炉裏端に座らされた。
ずずっと鼻をすすると外套を貸してくれた。
少し重みがあって丈が長いのでとても暖かい。また心地良い香りに包まれて気持ちがとろけた。
「ありがとうございます。この外套、とても暖かくて、この首元のモフモフも気持ちいいです」
やっぱり袖が長くて、袖には通さず手は膝にのせた。
謙信「お前は……小さいな」
柔らかく微笑まれ、頭に手を乗せられた。
トクン
頭の上に乗った手が大きい…暖かい…
(なんでそんな…大事なものを見るような顔をしているの?)
謙信様に触れられて、優しい顔をされて何も感じないわけがなかった。
『好き』という気持ちが急激に高まって暴れ出す。
(っ…)
袖に隠れて見えない手を強く握って耐える。
「そ、そうですか?標準的な背格好だと思いますが…。
それよりお昼ご飯は口に合いましたか?天ぷらで胸やけしていませんか?」
暴れる感情をねじ伏せて話を変える。
話を変えなきゃ何故か甘い空気になりそうで…
謙信「心配するな、お前が作ってくれた料理はどれも珍しく美味しかった」
「よ、良かったです」
失敗。
話題を変えたところで落ち着かない甘い雰囲気は変わらなかった。
(目が…謙信様の目が甘いんだ)
ジッと私を見つめる二色の瞳が、自惚れでなければ…甘さを含んでいる。
でもそんなはずはない。
きっと謙信様に惹かれてどうしようもないから、都合の良いように捉えているだけだろう。