第8章 看病六日目 道ならぬ恋
(謙信目線)
切った蕎麦の無惨な姿にどうなるかと思ったが、茹でて丼に入っているのを見るとそれなりに見られるようになった。
舞が熱いつゆをかけ、持ってきた。
(年越し蕎麦なるものは天ぷらがのっているのではないのか?)
疑問に思っていると、すぐに舞が大皿を持ってやってきた。
様々な天ぷらが綺麗に盛られていて、豪快にドンと置き、食べろという。
(寺でも城でも、食事処でも料理は一人分ずつ皿に乗り、膳で食べたものだが……)
宴や野営の際、部下達が大皿から料理を取り食べているのは見ていたが、まさかこのように豪快に料理を出されるとは…。
(そう言えば昨日の餃子もそうだったか…)
「好きな天ぷらをとって食べてくださいね!
お蕎麦の上にのせて食べても良いし、そのまま食べても良いですし!」
(なるほど、相手の食の好みや食べる量がわからぬ場合はこういう手段が効率的か…)
納得し、佐助の様子を見ながら食べる。
天ぷらも蕎麦も、そう何度も食べた経験はなかったがとても美味しい。
不思議だ…
越後の城でさえ普段は食べぬ料理を簡単に作ってみせる。
まして国には年越し蕎麦という風習があるのだから、民はそれぞれ天ぷらを作るのだろう………食が豊かな証拠だ。
またしても舞達の国を詮索したくなったが、まずは料理を味わなければ。
さく…
つゆに浸す前に食感を楽しんでいると、
佐助「謙信様は天ぷらは別皿派ですか。俺は衣につゆが染み込んだのが好きなので、浸す派です」
大真面目に語り出す部下の脳内は一体どうなっているのか。
謙信「……お前の好みなど聞いてない。黙って食べろ」
「ふ、ふふっ」
舞が耐えかねたように吹き出した。
一つの皿から分け合って食べるのも悪くないものだ。