第8章 看病六日目 道ならぬ恋
(姫目線)
謙信「今度は何を作り始めた?」
昨日餃子を作った台で作業を始めると謙信様と佐助君が覗きに来た。
佐助君は6日ぶりに平熱になり『昨日の餃子のおかげだ』と笑ってくれた。
佐助「もしかしてお蕎麦?」
少し色のついた粉をみて佐助君が言った。
「うん。ほら、もうすぐ大晦日でしょう?昨日謙信様に年越しそばの風習がないって聞いたから、少し早いけど食べようかなと思って」
佐助「それは嬉しいな。4年ぶりだ」
「ふふっ、これを食べると『一年が終わったなー』って思うよね!
そば粉がこれしか手に入らなかったから小麦粉と混ぜて二八蕎麦にする予定」
佐助「舞さんが作ってくれるなら九一蕎麦でも十零蕎麦でも楽しみだ」
真顔で冗談を言うから吹き出してしまった。
「十零だと、うどんだよ。佐助君ったら」
話ながら粉をふるって混ぜ、用意しておいた水を入れていく。
佐助「へぇ、手際がいいんだね。作ったことあるの?」
「うん。蕎麦打ち体験を1回だけね。分量とかあいまいだから上手くいくか微妙なんだけど……」
水を含んだそば粉がそぼろ状になり、練ってひとまとめにしていく。
「おいしくなーれ、おいしくなーれ、なんてね」
佐助「それは……某おじさんがパンを作る時の魔法の言葉だね」
「さすが!」
現代の話ができる佐助君との会話は楽しい。
謙信「……お前達の国は大丈夫なのか?」
頭を疑っているような冷ややかな視線を受け、私と佐助君はまた笑った。
麺棒で生地を薄く延ばす頃には二人共うずうずしていたのでそば切りをお願いすることにした。
太い!遅い!という二人の会話が賑やかで、それを背中で聞きながら天ぷらを揚げた。