第7章 看病五日目 謙信様と餃子
(謙信目線)
初めて食べたぎょうざは美味しかった。
使われている材料はごく普通のものだったのに、期待していた以上だ。
佐助「二人で包んだの?寝てないで俺も手伝えば良かった」
佐助が箸を止めた隙に餃子をひとつ攫う。
佐助「あ…その餃子は俺がとろうとしたやつです、謙信様」
佐助「知らんな。早くとらぬ方が悪いのだ」
「ふふ、まだたくさんあるから喧嘩しないでね。
謙信様は餃子づくりが初めてだったのに、すごく上手だったんだよ。最後の方は直しが要らないくらいだったんだから。
あ、ほら、この餃子が謙信様が包んだやつだよ。これもこれも…あれ?私が作った餃子はどこ?」
舞が大皿からひとつとり、佐助の小皿に置き、自分が包んだ餃子がないと首を傾げている。
(当たり前だ、佐助も俺も舞が包んだものを食べているからな)
佐助「本当だ。舞さんと遜色ない出来だ」
謙信「佐助、食べながらしゃべるな。行儀が悪いぞ」
餃子の合間に鶏皮せんべいを齧りながら酒を楽しむ。
『辛口のお酒が合いますよ』と舞が出してくれた酒が料理によく合った。
「ふふ、本当に仲がいいんだね」
今の場面を見て、どうして仲が良いと思うのか。
この女の能天気さには呆れる。
「うんうん、謙信様の餃子、美味しいです」
舞が幸せそうに頬を染め、餃子を頬張っている。
佐助が箸を止めて愛でるように見ている。
知り合った当初は恋仲の女が舞で大丈夫かと懸念したが、今では佐助の慧眼に感心する。
この女と居て刀が鈍ることはないだろう。
誰よりも佐助を理解し、陰ながら支えようとするはずだ。
降り注ぐ危険を自ら払いのけそうな…強い女だ。
謙信「材料を用意して下味をつけたのはお前だろう?」
「そうなんですけど、謙信様が包んだっていうだけで凄く美味しく感じるんです!
ね、佐助君!」
佐助「ふっ、そうだね。でも俺は舞さんが包んでくれた餃子も捨てがたい」
(捨てがたいなどと、お前は先程から舞の餃子っばかり食べているだろう)
じっと睨むと、佐助が意味ありげに瞬きをした。
俺が包んだ餃子を見てから舞の方を見る。
謙信「……?」