第7章 看病五日目 謙信様と餃子
つられて舞を見るが、余程餃子が美味しいのか蕩けそうな顔で食事をしている。
佐助が何か言わんとしていることがわからなかった。
「あ、これ、私が包んだやつだ」
佐助「っ」
謙信「!」
見ると舞が最後の1つをとろうとしている。
(食べ物を争う趣味はないが…)
いち早く箸を伸ばすが、同時に正面から箸が伸びてきた。
佐助だ。
(上司から食事を奪うつもりか)
睨みをきかせると、佐助はわざとらしく咳をしてみせた。
(病人だから寄こせというのか)
お互い動きを止めたまま睨み合う。
「あ、あの、取り合いっこしないでくださいね。そうだ!」
舞は土間から包丁を持ってきて餃子を半分に切り分けた。
「ほら、仲良く半分こです」
すっかり子供扱いされて脱力したが、最後の餃子を味わって食べた。
佐助「また食べたいけど、舞さんはもうすぐ帰ってしまうからな。残念だ…」
(佐助は何故引きとめない?)
恋仲の女と離れるというのに、あっさりし過ぎではないだろうか。
「そうだね…。レシピ置いて行こうか?そうすれば謙信様と一緒に食べられるんじゃない?」
また食べたいのは同意するが、佐助が作った物を食べたいわけではない。
困り顔をしている横顔をそっと見て、小さく息を吐いた。
(この女が作ったものでなければ…意味がない)
謙信「…!?」
片手で口元を覆った。最近思考が明らかにおかしい。
心の臓も調子が良くないが、そこからきているのだろうか。
佐助「謙信様、どうかしましたか」
謙信「いや、なんでもない」
佐助の声を聞いていると、何故かうしろめたさを感じた…。