第7章 看病五日目 謙信様と餃子
「記念にこの絵を頂いてもいいですか?」
謙信「なんの記念だ?」
「えっと『謙信様が絵を書いてくれた記念』?です」
謙信「くだらん、そんな絵のどこが記念になるのだ。よこせ」
すっと伸びてきた手に紙を取られてしまった。
「あ!もともと私が落書きしていた紙です。返してください」
そう訴えると、謙信様は紙を表にしてみせた。
流麗な文字が目に飛び込んできて、謙信様の薄い唇がにやりと弧を描く。
謙信「これはもともと俺が使っていた紙だ。だから俺のモノだ」
「う、で、でも書き損じだから好きなように使えって言ってくださいました!」
紙の所有権を巡って言い合いになる。
と言ってもお互い本気じゃなく、やり取りを楽しんでいる風だった。
謙信「ん……?このたぬきはなんだ?」
二頭身キャラの他にも描いてある絵を見て、謙信様が首を傾げた。
「それは『どらとらざえもん』という未来から来た、からくり人形です。
虎を模して作られた人形なのに、たぬきとよく間違えられるんですよ」
謙信「そう言われれば縞(しま)模様で虎に見えなくもない。
だが書物で見た虎はもっと獰猛な顔つきをしていたが…」
「ふふ、子供向けのお伽話に出てくる人形なので、子供達が慣れ親しめるよう優しい顔つきになっているんです。
お腹に袋をつけていて、そこに入っている不思議な道具で主人公の女の子を助けてくれるんです」
謙信「そんなお伽話は一度も耳にしたことがない」
「そうですね、遠い私の国で作られたお話ですからご存じないのは当たり前です」
もう一つ思い出した。
「そうそう、どらとらざえもんはドラムっていう西洋の太鼓が好きでいつも持ち歩いているんですよ」
謙信「お前の国に伝わるお伽話を俺にしてどうするのだ」
「こんなくだらない話もいつか役に立つかもしれませんよ。雑学って言うんです!」
人差し指をピンとたてて笑って見せたけど、かるーくスルーされてしまった。