第1章 触れた髪
「越後のお城はどんなところですか?」
謙信「安土の人間がそれを聞いてどうする?お前の奉公先に報告して攻め込んでくるつもりか?
色違いの目が物騒に細められ、慌てて否定した。
「ど、どうしてそんな物騒な話になるんですか!!ただ、いつか行ってみたいなと思っただけです。
佐助君や謙信様が住んでいるお城がどんなところか少し気になっただけです!
じゃあお城の話はしなくて良いですから、越後の様子を聞いても良いですか?
越後はお米がたくさん採れるから田んぼが多いんですか?」
謙信「ほぉ?米の事を聞いてくるとは兵糧の算段でも…」
「しませんから!っていうか、できません!もう!謙信様、私で遊んでいるでしょう?」
顔を見れば謙信様が本気で言っていないとわかるので、抗議する。
謙信様は少し頬を緩ませて答えてくれた。
謙信「ふん、お前がそのような事をする女だとは思っていない」
「え?」
謙信「お前は驚くほどこの乱世に染まっていない。
周りから浮き上がって見える程、異質な存在だ。
血なまぐさい乱世に生まれ育ち、何故そのように純粋にいられるのだ?」
謙信様の盃を傾けながらこちらをチラリと見た。
(わ、私ってそんなに浮いた存在なのっ!?)
4か月間こちらで生活し、馴染んできたと思っていたのに『異質』とまで言われてしまいショックを受ける。
けれど、500年の時の差があればそうなのか…とも思う。
現代に信長様や謙信様がタイムスリップしたと仮定すると、とんでもなく浮きそうだ。
それと同じで一般人の私と言えども、この時代では浮いたように見えるのかもしれない。
謙信「身に纏う雰囲気。しぐさ。目の動き。歩き方。呼吸。
どれをとって見ても、お前が俺から情報を聞き出して何かするような女ではないとわかる…不思議な女だ」
左右色違いの目が射るようにこちらに向けられて、身動きできなくなる。
『500年後の未来から来たからだ』と答える訳にもいかず、だからと言って謙信様の前で嘘はつきたくなくて、ただただ見つめ返した。