第7章 看病五日目 謙信様と餃子
謙信「いや、なかなか良い手つきだと感心していたところだ。
お前は裁縫の技術といい、手先が器用なのだな」
「ありがとうございます。でも餃子ならすぐ作れるようになりますよ。
そうだ、良かったら一緒に作りませんか?」
頬に白い粉がついているのにも気付かず、舞が無邪気に誘ってきた。
(なに?)
まさか誘われるとは思いもしなかった。
だが舞がとても楽しそうに作っていたものを俺も作ってみたいと思った。
他人の楽しみを共有してみたいなどと、記憶にある限り初めてだ。
謙信「お前が望むならそうしよう」
袖が邪魔にならぬよう襷がけをして腰掛に座った。
舞の身体が当たり、身体の左側に温もりが伝わってくる。
夜着に移った香りよりもはるかに芳しい香りが鼻を掠めた。
(っ!)
一瞬気が乱れたが舞は気づいておらず、それどころか俺との距離の近さに動揺しているようだった。
(自分で誘っておいて愛(う)い奴だ)
昨日見たよりも頬を真っ赤に染め、動揺を隠せず薄茶の目が揺れ惑っている。
初々しい反応から目が離せず、胸がきゅぅと締まった。
度重なる胸の締めつけに眉をひそめた。
(なんだ?越後に戻ったら典医に診てもらった方が良いかもしれぬ)
謙信「それでどうやって作るんだ?」
「えっと、皮を左手に持ち、こうしてこうして………」
赤い顔をしていても手つきはいい。
見よう見まねで皮の中央に具材を乗せ。水をつけて半分に折りたたんだ。
ここまでは誰もができる簡単な作業だ。問題はその後だ。
ひだをつけていくと具材が飛び出てきた。
舞に渡すとあっという間に具材を戻し、綺麗な状態になった。
刀の軌跡を追うのは容易いが舞の手つきは追えなかった。
(今、どのようにして直したのか見えなかった)
上手いものだと感心すると、
「慣れですよ、慣れ!失敗しても直しますからどんどん作りましょう!」
くっついて座っているのを忘れたのだろう。
なんのためらいもなく至近距離で笑いかけてきた。