第7章 看病五日目 謙信様と餃子
(謙信目線)
舞はいつもより早く昼餉の仕度に入った。
野菜と肉を細かくを刻み、混ぜ合わせ、それが終わったかと思えば粉を練り始めた。
何を作っているのか気にかかる。
素知らぬふりをして様子をうかがっていたが、どのような料理になるか想像もつかない。
もどかしい思いで筆を運んでいると佐助が舞に歩み寄った。
手元を覗き表情を輝かせたところを見ると、何を作っているのか察したようだ。
佐助「もしかして今日のお昼は餃子?」
(ぎょうざ?)
料理の名を聞いてもわからない。昨日舞が言っていた通り、俺が知らぬ料理のようだ。
「そう!懐かしいでしょ?
種には白菜とネギ、生姜、鶏肉を使ったんだ。佐助君の胃がびっくりしないように、野菜の比率を多くしてあるよ」
材料を聞く限り突拍子のない物は入っていないようだ。
書簡に並び綴られている年始の行事と段取りを頭に入れていると、
佐助「お父さん?お母さんじゃなく?」
「母は私を産んで直ぐに亡くなっているの」
舞の家族の話に意識が向いてしまう。
(赤子の頃に母を亡くしたのか…)
不憫に思っていると父親も最近亡くしたという。
両親を共に亡くしている、さほど珍しいことではないのに妙に気にかかった。
寂しい想いをしただろうに、そんなことを露とも見せず笑っていた。
(大事な者を亡くし、何故お前は笑っていられる?)
年始の行事どころではない。
書簡をしまいこみ土間に下りると、舞は粉を練って丸く伸ばしたものに刻んだ野菜を乗せ、器用に包んでいる。
集中しているのか俺に気づかず、やたらと楽しそうな顔で包んでいる。
(……そんなに楽しいのか?)
話をしたいがために来たというのに、ぎょうざを作る工程に興が湧いた。
つい近すぎたせいで台に影を作ってしまい舞に気づかれてしまった。
舞の国には大陸の食文化が伝来しているようだ。
俺と言葉を交わしながら手は動き続け、次々と餃子が出来上がっていく。
職人技のような動作に感心していると手が止まった。
「あの、謙信様?そのように見られると作りづらいのですが……」