第7章 看病五日目 謙信様と餃子
餃子のお鍋からパチパチと油が跳ねる音が聞こえ始めた。
「あ、わかりますか?お鍋の音が変わりました。さっき入れたお湯がなくなったんです」
湿っぽい空気を振り払い、黙ったままの謙信様の袖をひいて竈(かまど)の前に立った。
蓋を開けるともわっと湯気があがって良い香りが部屋中に広がった。
ジュ―――、パチパチ!
脂がはねる音を久しぶりに聞いた気がする。
「蓋をとった後は蒸気を飛ばしながら、焼き目をつけていきます」
まんべんなく焼けるようにお鍋を動かす。
謙信様は隣で黙って見ている。
餃子を裏返して焼き目がついているか確認して火からおろした。
すかさずそこに作っておいたわかめスープのお鍋をのせて、温め直す。
「謙信様が包んだ餃子も上手に焼けましたよ!」
菜箸で焼き上がった餃子を1つ持ち上げた。
謙信「ああ、美味しそうだな」
端正な顔立ちに綺麗な笑みが浮かぶ。
清々しいという表現がピッタリくるような……とにかくスッキリした顔をされていた。
「……?」
(料理が完成した達成感?)
いやそんな単純なことじゃない。
差し込む陽光にあたり鮮明に輪郭を浮かばせた姿は凛としていて、しっかりと『生』を感じさせた。
(儚さが……消えた?)
儚く消えてしまいそうだった謙信様に陰りがない。
どうして突然変化したのか、それを知るのは少し先のこと…