第7章 看病五日目 謙信様と餃子
(餃子といい鶏皮せんべいといい…)
今日は父の顔をやたらと思い出す。
謙信「……これを食べながら飲むのが好きだったのはお前ではなく、父親か?」
「え……」
謙信「驚くことはない。お前は本当にわかりやすい」
労わるように頭を撫でられた。
どうやら表情から読まれてしまったらしい。
父を亡くして1年。
泣くことはほとんどなくなっていたのに、頭を撫でられた瞬間にジワっと目頭が熱くなった。
それ以上は涙が出ないように唇をきゅっと引き結んだ。
「ええ、餃子も、鶏皮せんべいも父の好物でした。思い出の料理です」
謙信「お前は二親(ふたおや)を失くしていたのだな。
思い出すのは辛くはないか」
「母のことは覚えていませんのでさして辛くはありませんが、父のことは全然辛くないといえばウソになります。
けれど誰の言葉かは知りませんが『故人を思い出す人が居なくなった時、人は本当に死ぬ』って聞いたことがあって……」
謙信「っ」
謙信様の肩がぴくっと動いた。
「私が死ぬまでは両親を本当の意味で死なせたくないなって思います。
父が話して聞かせてくれた母のことも覚えておこうって」
謙信「………」
「どうしようもない話だったり表情だったりするんですけどね、居なくなってしまったらどれも大切なものだったんだなって実感します。
時々寂しくて涙する時もありますが、それも全部ひっくるめて残された者のつとめだと思っています。
父と母に誇れるように目一杯生きる人生にしたいんです」