第7章 看病五日目 謙信様と餃子
皮が破けた、中身がはみ出た、形がおかしい、くっつけたひだが離れる。
淡々とした口調で、でも凄く困った顔をして助けを求めてくる姿がどうにも可愛いく、格好よかった。
餃子を包み終え、焼くところまで見たいと言うので一緒に竈(かまど)の前に立った。
意外と好奇心旺盛なんだと新たな発見に喜ぶ。
油を多めにしいた鍋に餃子を並べ、鍋が熱くなったところでお湯を回しいれて蓋をした。
「5分くらい蒸し焼きにします」
謙信「5ふん……?」
「あ、違った。少しの間ってことです」
謙信「ふむ……ところでこっちのこれはなんだ」
もう一つかけていたお鍋の上でじっくり焼いていたのは、
「それは鶏の皮です。こうしてじっくり焼くと鶏の脂が出てくるんです。旨味をだすために餃子の種にも入れたんですが、まだこんなに脂が出てきていますね」
余分な脂を別皿に取り、鶏皮の状態を確認すると脂が抜けてカリカリになっている。
まな板にのせて一口サイズにして、紙を敷いたお皿の上にのせて完成だ。
「鶏皮せんべいっていうんですけど、お酒のつまみになります」
菜箸で1つとり、謙信様に差し出す。
「出来立てが一番美味しいですよ。はい、あーん」
謙信様はサッと顔を赤らめ、渋い顔をした。
謙信「この俺につまみ食いを強要するとは、なんという女だ」
「べ、別に強要はしてませんけど、今が一番美味しい時だから食べさせたかっただけです!」
政宗と料理していた頃によく味見ごっこをしていたので、同じノリで謙信様にやってしまった。
政宗が特殊なだけで、武将が台所でつまみ食いなんてしないのだろう。
慌てて箸を置こうとして、右手を掴まれた。
謙信「仕方ない、味見をしてやろう」
箸の高さまで身をかがめた折に褪せた髪が揺れ、長い睫毛に彩られた二色の瞳も綺麗で、
(っ、本当に何から何まで綺麗な方だな…)
小さく開いた口にこげ茶色の鶏皮せんべいが入っていくのが不釣り合いだ。
申し訳なかったかなと後悔したのも遅く、カリカリと小気味よい音が聞こえた。
謙信「この歯触り、なかなかに良いな。塩味が効いて美味しい」
「お口に合って良かったです。これを食べながら飲むのが大好きで…」
『太りそうだけどやめられないんだよな』そう言って笑っていた父の顔が浮かんだ。