第7章 看病五日目 謙信様と餃子
(姫目線)
佐助「もしかして今日のお昼は餃子?」
佐助君は大きな器に入っている餃子の種と、丸い皮を見て嬉しそうに言った。
「そう!懐かしいでしょ?」
生地を麺棒で伸ばし丸い皮を何枚も作っていく。
スーパーで売っている皮よりも厚みがあって歪(いびつ)だけど、ご愛嬌だ。
「種には白菜とネギ、生姜、鶏肉を使ったんだ。佐助君の胃がびっくりしないように、野菜の比率を多くしてあるよ」
皮を作る作業にも慣れてきて、話しながらでもスイスイ作れるようになった。
皮同士がくっつかないように打ち粉を多めにふる。
「あ」
新しく作った皮を重ねる勢いが強くて、打ち粉が舞い上がって台の上が白く汚れた。
「やっちゃった…」
佐助「最後に拭けばいいよ。餃子なんて久しぶりだ、嬉しい」
佐助君は4年も戦国ライフを送っているから、現代の料理で作れそうなものをと思いついたのが餃子だった。
「父とね、時々作って食べたんだ。皮はいつも父の担当だったから見様見真似だけど……種の味は保証するよ」
去年、病気で死んでしまった父との懐かしい思い出だ。
小さい頃は皮が破けたり、種がはみ出したりしていたけれど、小学校中学年くらいになると上手に包めるようになった。
お父さんが『不格好な餃子も良かったんだけどなぁ』なんて、寂しそうな顔をしていたっけ。
佐助「お父さん?お母さんじゃなく?」
「母は私を産んで直ぐに亡くなってるの。
父は『あいつが作った餃子は美味しかったんだよ』って、母の餃子を再現しようと頑張っていたけど結局最後まで納得できる餃子はできなかったみたい。
父の餃子も充分美味しかったけどね」
佐助君の表情が少し曇った。
佐助「もしかして舞さんのお父さんは…」
「うん、去年病気で。病気がわかってからあっという間だった。
心機一転で転職しようと思い立って晴れてデザイナ―になって、その記念に一人で京都旅行をしていて……」
戦国時代に来てしまった。
言葉を濁しても佐助君はわかってくれた。
餃子を包むのを手伝うと言ってくれたけど熱っぽい顔をしているので寝ているように言ってせっせと皮作りに励んだ。