第6章 看病四日目 二人の香
(謙信目線)
城に帰る刻になったため舞が寝室で着替えて出てきた。
きっちりと畳まれた夜着は朝とそう変わらない状態だ。
刀の手入れをしていたのでその辺に置くように言う。
佐助「その着物も素敵だけど、さっきの舞さんはレアだった。
ぜひまた見たい」
(真っ直ぐにものを言いすぎではないか?)
仲の良い二人を見る度に心の闇が濃さを増し、温めてくれていた温もりもいつのまにか失われようとしていた。
謙信「お前は…珍しいモノ見たさで何を言っている。
自分の女が着物を濡らす前に阻止するのがお前の役目であろう?」
佐助「…謙信様が『レア』を理解していることに驚きです。
それはさておき舞さんには俺以外にも守ってくれる頼もしい人がいそうですけどね」
謙信「?」
舞を守るのは佐助の役目であろう。
それを『俺以外にも』などと腑抜けた回答をするとはどういうことだ。
(好いた女は誰の手でもない、己の手で守るものだ)
舞が城に戻れば、佐助ではなく安土の連中が守る。
そういう意味だろうか。
「ごほん!佐助君」
舞が焦った顔で佐助の身体に肘をぐりぐりと押し付けている。
佐助「いてて、ごめん」
さして痛くもないだろうに、やりとりを楽しむように佐助と舞の会話が続いていく。
ぼりゅーむ、めにゅーなど聞きなれない単語が出てくるが、要するに佐助に精をつけるために食事内容を変えるということか。
佐助「毎日おいしい食事を作ってくれるから、毎回楽しみなんだ。
迷惑をかけているけど、もう少しの間お世話になっていいかな。
早く元気になるように頑張るよ」
「気にしないで。佐助君はいつも助けてくれたからお返しだよ。
私だって佐助君の助けになりたい」
謙信「………」
桃色の空気が怒涛のように押し寄せてきて、二人が信頼し合っているのが伝わってくる。
(つまらん)
引き抜いたばかりの姫鶴がギラリと光をはね返した。
ここに引きこもってからは使っていない愛刀が出番を待っているようだ。