第6章 看病四日目 二人の香
「良かった。じゃあ、明日から少しメニューを変えていくね」
佐助「毎日おいしい食事を作ってくれるから、毎回楽しみなんだ。
迷惑をかけているけど、もう少しの間お世話になっていいかな。
早く元気になるように頑張るよ」
「気にしないで。佐助君はいつも助けてくれたからお返しだよ。
私だって佐助君の助けになりたい」
回復の兆しが見えてほんわかしていると、ビシビシと異様な雰囲気が漂った。
(これはまさか…)
予感がして謙信様の方を見ると不気味に冷たい目をしていて、手入れのためにと抜いた姫鶴一文字がギラリと光った。
謙信「急に姫鶴の切れ味を確かめたくなってきた」
「はっ!?」
佐助「それは勘弁してください、謙信様」
佐助君が抜かりなく身構え、私は驚いたものの謙信様から庇うように佐助君を守った。
謙信「………」
謙信様は刀を抜いた姿勢でこちらをジッと見ている。
クールな表情は見事に内心を隠していたけど、少し怒っているような気がした。
(怒らせるようなことをしたかな)
剣の迫力にごくりと喉が鳴った。
「謙信様ったらご冗談を。佐助君を苛めると体調が悪くなって越後に帰るのが遅くなってしまいますよ。
それでは私は帰る準備をしますね」
笑い飛ばすに限る!と、なんとか不穏な空気を撥ね退けると、謙信様は刀の手入れの続きをはじめ、佐助君は布団に横になった。
(はぁ、びっくりした)
羽織を着て襟巻をしたあと、足袋をはく。
(流石に足袋は乾かなかったな)
足袋と草履の湿っぽい感触にぞぞっと寒気がした。
帰り道でまた濡れるだろうし一時我慢するしかない。
謙信「気をつけて帰れ。朝も言ったが道が悪い時は無理せずとも良い」
「はい、わかりました。今日は一日お世話になりました。
明日は謙信様が食べたことがない料理を作ろうと思っているので楽しみにしていてください。お酒にも合うと思います」
謙信「ああ、楽しみにしていよう」
「っ、ではまた明日」
布団に横になっている佐助君からは謙信様の表情は見えなかっただろう。
楽しみにしていると微笑んだ謙信様は、それはもう心を溶かされるような甘い、甘い笑みを浮かべていた…。