第92章 現代を楽しもう! ❀デート編(R-18)❀
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赤信号になり、チラリと助手席に座る謙信様を盗み見た。
座席を一番後ろにしても長い足を余らせて、少し曲げた膝の上に長い指を組み、窓の外を見ている。
涼しげな雰囲気を纏わせた綺麗な横顔。
どこをどう見ても非の打ちどころがない。
(こんなに素敵な人に……あの日全てを奪ってもらったんだ…)
『あなたのものになりたい』は綺麗ごとなのかもしれない。
『あなたに全部あげるから私のものになって欲しい』というのが本心…なのかもしれない
醜い独占欲が根底にあって、謙信様の心を傷つけてでも奪って欲しかった。
謙信様に傷を負わせることで……私に縛り付けようと……
(清らか……じゃないよ、謙信様…)
綺麗な横顔を切なく見守る。
いつも謙信様は私のことを清らかな心だと言ってくれるけど、そんなことない。
こんなにも卑怯なやり方で謙信様を自分に縛りつけている。
ドロドロした本心。
いつか気付かれて嫌われちゃうんじゃないかと…時々不安になる。
謙信様の執着なんて、私の本心に比べれば綺麗なものだと思う。
(……大好きなの…ずっと…私の傍に居て欲しい)
胸がじりっと熱くなる。
謙信「……なんだ?」
「え?」
外に向けられていた二色の瞳がゆるりと私へと向けられた。
謙信「そのように見つめられると……誘っていると…勘違いするぞ?」
艶を含んだ視線とセリフに頭が真っ白になる。
「え、え?え?そんなこと思っていないです!
ちょっと、いえ、凄く…格好良いなぁって見惚れていただけです」
澄んだ色をした綺麗な瞳が、内側にまで差し込むように見つめてくる。
謙信「……青だぞ」
「っ!?は、はい」
動揺している間に信号が変わっていたらしい。
アクセルを踏むと車が静かに走り出す。
謙信「初々しい妻だな」
助手席で謙信様がクスリと笑っている。
ハンドルを握る手に、重ね付けした二つの指輪が光っている。
現代の恋人達がするデートをして、プロポーズされて………全部謙信様のものになった。
「謙信様……あの日、デートに誘ってくれて、ありがとうございました」
察しの良い謙信様に気付かれないよう、本心を覆い隠してお礼を言った。