第6章 看病四日目 二人の香
(姫目線)
そろそろ帰る時間になり、憂鬱な気分で腰をあげた。
(謙信様の夜着、脱がなきゃいけない)
衣桁にかけていた着物はほとんど乾いていて、寝室を借りて着替えを始める。
(いい香りだったな……って駄目だ。変態だ!)
着慣れた着物にさっさと着替え、夜着はなるべく朝貸してくれた状態と同じように、外套は皺が寄らないように丁寧に畳む。
最後に足袋を揃えておしまいだ。それらを手に持ち寝室を出た。
「謙信様、一日貸してくださってありがとうございました」
謙信様は囲炉裏端から少し離れたところで刀の手入れをしていた。
短刀の手入れが終わったところのようで、愛刀の姫鶴一文字を鞘から抜いたところだった。
刀身の冷たい輝きは、手入れの必要を感じさせないくらい眩しい。
謙信「かまわん。その辺においておけ」
佐助「その着物も素敵だけど、さっきの舞さんはレアだった。
ぜひまた見たい」
謙信「お前は…珍しいモノ見たさで何を言っている。
自分の女が着物を濡らす前に阻止するのがお前の役目であろう?」
佐助「…謙信様が『レア』を理解していることに驚きです。
それはさておき舞さんには俺以外にも守ってくれる頼もしい人がいそうですけどね」
謙信「?」
「ごほん!佐助君」
熱がある熱い身体に肘をグリグリ押し付ける。
(そんなこと言ったら謙信様が変に勘ぐっちゃうじゃない!)
佐助「いてて、ごめん」
わかりにくく苦笑して、佐助君は降参のポーズをとった。謙信様が怪訝そうな顔をしてこっちを見ている。
「えーと、佐助君。そろそろ熱が下がってくる頃だから少しずつ食べ物にボリュームを出そうと思っているの。食べられそう?」
話題を変えようと一つ提案をした。
ここ数日は消化に良いものや野菜料理を中心に作ったけど、越後に帰るなら体力をつけるためにも動物性のものを取った方が良いように思えた。
佐助「大丈夫。熱は相変わらずだけど、昨日の夜くらいから食欲が増してきている。
回復傾向かなと勝手に思ってるんだけど」
表情や目に以前の力が戻ってきている。