第6章 看病四日目 二人の香
(謙信目線)
佐助「おはようございます、謙信様」
「あー、ごめん。私だよ。眼鏡かけて」
舞が昼食の用意ができたと佐助を起こすと、眼鏡をかけていない佐助はすっかり勘違いしたようだ。
(身に着けている物は俺の物だが気配や動作で察しろ)
昼餉を食しながら呆れる。俺の部下は本当に大丈夫だろうか。
佐助「舞さん、その格好はどうしたの?」
「着物を汚しちゃって、乾かしているところなの。
佐助君の忍び装束を借りようとしたんだけど謙信様が夜着を貸してくれて……」
説明していた声色が恥ずかしそうに小さくなっていく。
その後はぼそぼそと小さな声で話していたが、唐突に佐助の声が元に戻った。
佐助「そんなことないよ。今の君は絶対可愛い。
サイズが合っていない着物を『頑張って着ている感』が凄く」
「そう言ってくれるのは佐助君だけだよ、ふふ」
佐助「ほら、口元を覆うと袖がめくれて肌が見えるのも、動いた拍子に合わせがゆるゆるになるのも、いつも以上にうなじが綺麗に見えているのも、全部可愛いと思う」
(佐助と舞の国ではあのようにあけすけに女を褒めるのか?)
舞の愛らしい箇所を包み隠さず『可愛い』と…。
謙信「………」
手に持っている茶碗と箸が急に重みを増した気がした。
明るさをとり戻しつつあった心が、瞬く間に黒雲に覆われていく。
(なんだ?…胸が苦しい)
思っていても伝えなかった舞の愛らしさを、佐助に言われてしまった。
舞にとって俺は他人で佐助は恋仲だ。
当たり前だろうという気持ちと、整理できない気持ちがせめぎ合いを始めた。
舞は指摘された箇所を慌てて正したが、大きさの合っていない夜着は、隠したいところを隠してはくれなかったようだ。
「も、もう佐助君ったら!昼餉を運んでくるから待っててね」
俺には見せたことのない真っ赤な顔をして舞は土間に下りていった。
佐助は寝床から起き出してきて俊敏さの欠片もない動作で近くに座った。