第6章 看病四日目 二人の香
「謙信様に私の護身術なんかたちうちできませんよ、ふふ。
けどこの香り、とっても好きです。謙信様に凄くお似合いです」
外套の襟の感触を楽しむように舞が首を傾げた。
白い毛が舞の首や耳をくすぐっているのだろう。心地よさそうに頬を緩めた。
よく見ていなければ見落としていたであろう一瞬の仕草だった。
常ならば他人に外套を好きにさせるなど斬って捨てるところだが、静まっていた胸の内が再びさわさわと騒ぎ出した。
謙信「そうか……」
今日は何度こうして目を逸らしただろう。俺らしくないのは自覚している。
だが目を逸らさずにいると気づいてはいけないものに気づいてしまいそうな予感がするのだ。
見て見ぬふりをするのは性に合わない。
だというのに乾ききった心に日がさし、暖かな風が吹いている事実から…目を逸らした。