第91章 現代を楽しもう! ❀お花見編❀
(わっ、沈む!)
水面とボートの縁(へり)が重なりそうなギリギリのラインだ。
あと数センチ舟が傾けば水が流れこんでくるだろう。
「謙信様、駄目です。水がっ!」
慌てる私の肩に手を乗せて、謙信様は余裕の表情だ。
謙信「お前を水に浸(つ)ける間抜けだと思っているのか?
口づけがしたいなら早く言えば良かったものを。俺とてさっきからずっとしたかった」
太陽の光が遮られ、影ができた。
細められた目が見え、柔らかい髪が頬に触れ、あっという間に唇に柔らかい温もりが触れた。
「ん!?」
謙信「ふっ、目が開いているぞ」
「それは~~~~~~」
謙信「目を瞑って味わえ」
「ん!」
ゆらゆらと揺れるボートの上でどこか心許ない気分で目をつむると、さらにチュッ、チュッ、と二回も口づけされた。
「謙信様っ!!」
(誰が見ているかわかんないのに!)
文句を言う前に謙信様は身を翻して元の場所に戻った。ボートと水面の位置が元に戻り、大きく息を吐いた。
謙信「そろそろ時間だ。名残惜しいが戻るぞ」
「…はい」
恨めしげに睨む私とは反対に、謙信様は機嫌良さそうにオールを動かしている。
謙信「舞」
「なんですか?」
謙信「今夜はお前が思い出したものを全て忘れるまで抱くぞ。覚悟していろ?」
「思い出したものって…」
こんな真昼間から夜の話をされ、綺麗な顔を凝視する。
謙信様はさも当然と言った表情で舟を漕いでいる。
謙信「昔の男に会って何も思い出さなかったとは言わせない。
現実に、今、与える熱で全て上書きし、昔の記憶を彼方に追いやってやる。
もう二度と思い出せないくらいに」
「二度とってそんな…」
そんなの無理。いや、謙信様ならできるのかもしれない。
謙信様との夜を想像してしまい、また顔が熱くなってきた。
「は……い…」
恥ずかしくなって俯くと頭の上に手が乗った。
この手に今夜めちゃくちゃに愛されるのかと思うと、ますます顔をあげられなくなる。