第91章 現代を楽しもう! ❀お花見編❀
謙信「花見に来たのに、花を見ないのか?」
「っ、謙信様のせいでお花見どころじゃなくなりましたっ!」
頬を膨らませて、フンと横を向くと、謙信様がくっと肩を震わせた。
謙信「それは残念だな。では桜の花は来年の春まで持ち越しか?」
頭上のソメイヨシノを見ながら来年の春を想う。
「春日山城の桜を楽しみにしています」
謙信「ああ、一緒に見よう」
ボートの速度がぐっと上がった。
「……」
同じ時代に生まれ、すれ違いで歩む道が変わってしまった人。
生まれた時代が異なり、交わることさえ不可能だったはずの目の前の人。
ユウと別れて泣いた日を乗り越え、巡り巡って謙信様に出会った。
「謙信様、私の心にいるのはあなたです。大好き、です」
蕾が花開くように、想いがふくらんではじけた。
わかっていると言われるかもしれないけど、伝えたい。
私の胸の内をいつも察してくれる謙信様に、敢えて言葉で伝えたかった。
ひとかけらの不安も与えたくない。
昔の恋人を少し思い出しただけ。それだけだから。
思い出すのはユウの後ろ姿。
もう過去の人…。
わかっているだろうことを言葉にして伝えることに、意味はあると思うから、もう一度口にした。
「大好きです」
謙信「そう何度も言うな。だが俺の方がお前を好いているぞ?」
「いえ、私だって負けませんよ」
微笑んだ顔があまりに綺麗で吸い込まれそうになる。
(ああ、どうしよう。謙信様が好きでどうしようもない)
私は胸いっぱいの愛しさを逃すように、船着場につくまで頭上の桜をずっと眺めていた。
END