第91章 現代を楽しもう! ❀お花見編❀
「すみません!もう言いませんから」
すぐに謝ったけど薄い唇からは物騒な言葉が零れ落ちる。
謙信「さっきの男を舞の記憶から抹消してしまいたい」
「抹消っ!?そんなの無理ですよ。過去です、過去!!ご自分で言ったじゃないですか、私達が出会う前の話ですよ」
私の動揺に合わせて舟がゆらっと揺れた。
謙信「だが……っ!!」
「え?」
言い返そうとしていた謙信様が宙を睨み、突然片膝をついて私の方へと身を乗り出した。
はずみで大きく舟が揺れて、じゃぶん!と池の水が波打った。
(わわっ!?)
伸びてきた手が私の頭を前に倒した。
「??」
訳もわからず自分の膝に額をくっつけていると、ヒュッと音がして、脇にポタリと何かが落ちた。
よく見るとそれは真っ二つになった蜜蜂だった。
「蜂!?」
謙信「蜜蜂ゆえ、そう簡単に人を攻撃してこないだろうが念のためだ。
無駄な殺生はしたくないがお前の命は何よりも大事だ」
ありがたいという気持ちの他に、こんな小さな蜜蜂を真っ二つにするなんてと驚いた。
現代に来てからしばらく経つというのに腕は全く鈍っていないようだ。
「ありがとうございます。けど、蜂を何で切ったのですか?」
もちろん刀は差していない。謙信様はジーンズのポケットを叩いた。
謙信「いざという時のために小刀を仕込んでいる」
「抜き差ししている動作が全然見えなかったです。凄いですね」
謙信「お前に見られているようでは、この世では銃刀法違反とやらで捕まるだろう?」
揺れる舟の上でも安定した身のこなしで謙信様は周囲を確認している。
白シャツにジーンズという現代服を着ているのに、幻のごとく着物姿の謙信様が見えた。
こんな時に申し訳ないけど、見惚れてしまった。