第91章 現代を楽しもう! ❀お花見編❀
他のボートが居ない場所まで移動して謙信様は漕ぐのをやめた。
「やっぱりというか謙信様は漕ぐのがお上手ですね。乗っていてとても安心します。
父が漕いだ時はもっとオールがバチャバチャ水音を立てていた気がします。向かい側に座っていた私に時折水がかかる時もありました」
小さい私は水がかかるのも楽しくてはしゃいでいた記憶がある。
懐かしんでいると謙信様がオールをこちらに向けた。
謙信「漕いでみるか?」
「いえ、私は本当に漕いだことがないのでやめておきます」
オールを握った経験もないから、どこへ行くかわからない。
そもそも舟を動かせるのかも疑問だ。
謙信「やってみれば良い。この櫂(かい)は戦国の世より扱いやすくできている。
おかしな方向に行っても俺がなおしてやるから安心しろ」
「クルクル回っても笑わないでくださいね?」
オールを握れば硬い木の感触に手が馴染まない。
しっくりくる場所はないかと何度も握り直していると謙信様の唇がキュッとなった。
謙信「わかった」
「漕ぐ前から笑わないでください!絶対今、吹き出すのを我慢しましたよね?」
謙信「困っている様子も可愛いと思っただけだ。ほら、やってみろ」
「かわっ……!?」
(う~、さらっと可愛いとか言うんだもんなぁ)
口元がだらしなく緩みそうになるのを誤魔化して、オールに力を込めた。
「こう、かな?あれ、左右同時に動かせ、な、いぃ~~~!」
謙信様が軽く動かしていたオールは大きく重たくて、さらに水の抵抗が加わり全然言うことをきいてくれない。
意思に反してオールは左右別々の動きをして、水の表面をぱちゃぱちゃ撫でるだけだ。
もちろんそんなのでボートが動くわけもなく、さっきからずっと同じ場所に浮いている。
謙信様がアドバイスをくれるけど、上手くいかない。
「はぁ…はぁ…」
謙信「……ふ」
無駄に息を乱していると、謙信様が心底おかしいと片手で口元を覆っている。
さっきからずっと肩が震えっぱなしだ。
日差しを受けて褪せた髪色が透けて輝いている。
汗ばんで息を乱している私とは対照的に涼やかで優雅だ。