第91章 現代を楽しもう! ❀お花見編❀
うっとりと大好きな人を見ているうちにお尻がボートについた。
向かい合って謙信様も座り、慣れた手つきでオールに手をかけた。
ボートに乗ってみると思っていたよりも謙信様との距離があってちょっぴり寂しい。
(これじゃあ、できないな)
ボートを見かけた時から密かに企んでいたことは、この距離ではできそうにない。
恋人とボートに乗りたいという憧れの他に、もう一つやりたいことがあったのにと、そっと息を吐いた。
謙信「ようやく座ってくれたな、舞姫。そのまま静かに座っていろ」
おどけたように言って謙信様が舟を漕ぎだした。
安定した動きと、すっと動き出した舟に安心感を覚えた。
「ありがとうございます、謙信様」
謙信「良い。なかなかに面白かった」
舟を漕いでいる姿も素敵だ。気づかれる前に急いで目を逸らした。
遊歩道とは違った角度から見ると、桜の美しさもまた違って見えた。
(綺麗…)
現代で見る最後の桜だ。
忘れないようにと一心に見つめた。
「こちらの土手には菜の花が咲いて、綺麗ですね」
黄色と桜色、そして空の青。
美しい春の色合いにため息がでた。
ざぁ…
風が吹いて桜の枝がさわさわと揺れると、数枚の花びらがヒラヒラと舞い散った。
謙信様は舟を漕ぐ手を止めて景色を見て、私と同じようにため息を漏らした。
てっきり春の風景に見惚れているのかと思ったのに、そうではなかった。
謙信「先ほど舞のことをどこにも咲いていない稀有で美しい花だったと言ったが、お前はあの桜よりも綺麗だ。本当に」
「っ!?突然何を言い出すんですか、謙信様っ!」
(比べる対象が違う!!)