第91章 現代を楽しもう! ❀お花見編❀
「恋人ではなく夫です」
ユウ「そう……」
ユウの視線が私の結婚指輪を捉え、小さく頷いた。
ユウ「日本を発って間もなく、君のお父さんが亡くなったって人伝(ひとづて)に聞いて心配していたんだ。
舞が幸せそうで俺も嬉しいよ。じゃあね」
今どうしてるの?
日本で働いてるの?
時計をくれたおじいちゃんは元気?
いっぱい聞きたいことがあったけど、ユウの目が『駄目だ』と言っている。
きっと隣に居る謙信様を気遣ってくれている。
「ありがとう。元気でね」
ユウは柔らかく微笑むと、私達が歩いてきた方に足を進めた。
すれ違った時にフワリと動いた空気は春の香りがして、なんとなく俯いてしまった。
「行きましょう、謙信様」
謙信「ああ」
腕を引くと謙信様は歩き始めた。
謙信様のことだから、ユウが私にとって何なのか察しているはず。
説明した方がいいのか、でもわざわざ説明して嫌な思いをさせたらどうしようかと迷っているうちに、謙信様が静かな声色で質問してきた。
謙信「舞は、何故さっきの男とボートに乗らなかったのだ?」
『何故ボートに乗らなかったのか』という質問で謙信様が察しているのだと確信した。
「え…と、彼がボートを漕いだことがないと言うのでやめたんです。船着場に戻って来れなかったら大変ですし」
過去の話だ。別に悪いことをしたわけでもないのに、謙信様に説明する言葉が震えた。
謙信「そうか……」
謙信様はそれ以上は何も聞いてこなかった。