第91章 現代を楽しもう! ❀お花見編❀
「それはきっと私が戦国時代を経験してしまったからだと思います。命の尊さと儚さを知り、無情にも思える戦乱の世の理(ことわり)を肌で感じました。
こちらに帰ってきてからは、平和な今の日本があるのは、戦国時代の人達が命をかけてくれたおかげだと思い、過ごしています。
苦しくとも、悲しくとも戦い続け、信念のためにと這い上がるようにして生きた人達を知ってしまったから、この桜の花が美しいことにさえ感謝しているんです」
戦がないだけじゃなく、日々の生活においても蛇口をひねれば水が出るだけで感謝していた。
あのまま戦乱の世が続いてしまったなら、日本は発展途上になり、インフラは整わず、豊かな暮らしなど叶わなかった。
ソメイヨシノだって開発されなかったかもしれない。
戦国ライフを通してガラリと見方が変わったのは間違いなく、現代の人達が当たり前のように享受している様々なことに感謝する日々だった。
その点だけは他の人と違うと言い切れる。
戦国時代に居た頃は現代を
現代に居ると戦国時代を
それぞれの時代を想って生きている。
謙信様は静かに耳を傾けていたけど周囲をぐるりと眺め、私と目が合うと薄い唇を緩くカーブさせた。
謙信「それもあるかもしれないが、俺はやはり舞は稀有な女だと思っている。
この辺の女達が戦国の世に飛び込んで、何人生き残れると思う?おそらくお前以外は全員、まともな道は歩めぬ。
戦国の世に降り立った時点で舞は強さを備えていた。この平和な世で育った人間であるのに、その強さはどこで培われたのだろうな」
握っていた手がそっと離れ、肩をひき寄せられた。
謙信「俺は舞のその強さに惹きつけられた。強さだけでなく誰にでも手を差し伸べる無垢な優しさも全部好いている。
気に食わんが安土の連中も、舞の良さに気付き大事にしていたのだろうな。
舞はその気になれば歳など問題なく引く手あまただったはずだ。誰も憐れになど思っていなかっただろうと断言できる」
引く手あまたと聞いて、ふと三成君と光秀さんの顔がちらついてドキリとした。
二人の私への気持ちは謙信様には内緒にしてある。
動揺を気づかれないうちに胸に仕舞いこんだ。