第90章 現代を楽しもう! ❀謙信様の誕生日編❀
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子供達を寝かせた後、謙信様が寝ているお部屋に小さな丸テーブルを持ち込んで、二人きりのお祝いの宴をひらいた。
お腹がいっぱいなので、つまみは私が漬けた梅だけだ。
謙信「初めて家族と近しい者だけで誕生日を祝った。
城で祝われると建前の挨拶ばかりで煩わしい以外何物でもなかったが、今日の宴ははお前たちの思いがこもっていて嬉しかった。ありがとう、舞」
「いいえ、たいしたこともできなくて…。
ですが謙信様のお誕生日を祝うことができて本当に良かったです」
盃を持っていない方の手をキュッと握る。
500年前に置いてきてしまった人の手をこうして握っていられるのは奇跡だ。
胸がいっぱいになって見つめると、謙信様は濡れた唇を拭って触れ合うだけの口づけをくれた。
やっぱり謙信様には日本酒の香りがにあう。
「プレゼントはバレンタインにあげてしまったでしょう?
大げさなプレゼントを贈るよりも、この時代ならではの物でパーティーに華をそえたかったんです。
あっという間に溶けて消えてしまいましたが、お気に召しましたか?」
部屋には子供達と作った折り紙の花束が飾られて、必要最小限の物しか置いていないシンプルな部屋を彩っている。
謙信「酒を氷にとじ込めるなどと戦国の世では誰も思いつかぬだろう。異国の酒は不思議な味だったが、よく冷えて上手かった。
何よりも、お前が考えて祝ってくれようとしてくれた気持ちが嬉しかった」
「そう言ってくだると嬉しかったです」
準備期間は短かったけど、祝ってあげたいという気持ちは充分伝わったみたいだ。
胸を撫でおろしたところで、聞いてみたいことがひとつあった。
「謙信様、ひとつお聞きしても良いですか?」
盃を口に運ぶ手がゆっくりと止まった。
こんなところが品が良いなと思う。
動作ひとつにしても急ブレーキ急発進の私とは大違いだ。
謙信「なんだ?」
「謙信様って、おいくつになったんですか?」
現代の男性がどう頑張っても手に入らない貫禄があるけど、見た目は20代、30代くらいだ。
端正な顔立ちが年齢不詳にしている。
(お肌はすべすべだし、皺もない、脂ぎってもいないし…)
実は出会った頃から気になっていたけど、私には『特殊な事情』があって、とても気になっていた。