第6章 看病四日目 二人の香
舞のくしゃみが静寂を破った。
見ると鼻をすすってそのまま縫物を続けている。
(夜着一枚では寒かろう)
謙信「気付かなくて悪かった。そのままでは寒いだろう」
「え?わわっ!」
近くに置いてあった外套を掛けてやると舞の身体はすっかり隠れた。
俺は大柄な体つきではないが、自分の着物が舞を包み込んでいる様子を見ると体格差は明らかだ。
(俺より小さいのだな)
改めて感じ、胸の内にはよくわからないものがゆらゆらと揺れ惑っている。
それから目を逸らし予備の足袋を渡した。
謙信「ついでにこれも履け。大きいだろうが留め具をすれば脱げることはなかろう」
「だ、大丈夫っ…て、何してるんですか?」
素足に触れると氷のように冷たくなっている。
謙信「やせ我慢せず履け。女は身体を冷やしてはいかん」
女の身体はか弱い。油断すれば死んでしまいそうだ。
妙な焦りを覚え、言う事をきかせるために舞を睨みつけた。
「っは、はい!」
舞が足袋に足を入れ大きさを確かめている。
だいぶ大きいが素足で過ごすよりは良いだろう。足袋の足首周りの布があまって細い足首がチラリとのぞく。
俺の物を身につけ何やら楽しそうにしている舞に無性に煽られる。
気付けば唇が知らぬうちに緩やかな弧を描いていた。
さわさわと落ち着かぬ心と、舞に対する不鮮明な想いに眉をひそめた。
(心を鎮めろ)
意識を集中させると心が凪いでいく。
傍に座る舞を一切見ないようにして、書簡の処理を急いだ。