第6章 看病四日目 二人の香
謙信「……」
丈を詰めようとして腹周りの布がもたつき、それを押さえて結んでいる帯も余っている。
夜着が大きすぎるせいで肩が落ち、袷が緩く襦袢がのぞいている。
(滑稽な姿だ。だが……)
理解しがたいものが沸き上がってきて身体を熱くさせた。
掛ける言葉が出てこず、これ以上の熱を生み出さぬよう目を逸らした。
「夜着を貸してくださってありがとうございました。
この着物が乾くまでの間、お借りしますね」
謙信「……ああ」
舞は背を向けて衣桁に着物を干し始めた。
濡れた髪を結い上げたせいでうなじが顕わになっている。
眩暈にも似た感覚を覚え、片手で額をおさえた。
謙信「はぁ」
気付かれぬよう静かに息を吐いた。
(書簡に本腰を入れようとした矢先に意識散漫になってどうする)
牧を怠惰だなどと言っていられない。
(この集中力のなさはなんだ?)
この間から己がよくわからなくなっている。舞に気を取られ、胸が忙(せわ)しい。
(女一人に惑うなど、どうかしている)
着物を干し終えた舞に声をかけた。
縫い物でもしていろと言わなければこの女のことだ、冷えた体のまま働き始めるだろう。
心地よい静寂が訪れ舞がせっせと手を動かしているのが視界の隅に入った。
あれだけ動いているのなら、かじかんでいた手先は大丈夫なようだ。
「はっ……くしゅん!」