第89章 最終章 3人一緒
「そのデータを偽装したんじゃないかって言われて。
面倒だからさ、無難な色に変えたの」
背中まで伸ばした髪も、目の色も暗めのブラウンにしてある。
?「戻せよ。全然似合ってない」
「え、そうかな。友達にはなかなか好評だったんだけど」
?「違うやつと話してる気になる」
「そっか。ちょっと待ってね」
手首にしているバングルに触れ、プログラムを立ち上がらせた。
身体データを呼び出し、髪色、目の色、肌の色の初期化をする。
一瞬つま先から頭へと見えない輪が移動し、元の姿に戻った。
視界にうつる髪が褪せた金髪になり、肌の色も薄いオークルになった。
「えっと、これでいい?目の色、戻ってる?」
緋色の瞳が静かにこっちを見て頷いた。
?「肌の色まで変えてたのか。日焼けしたのかと思ってた。
相変わらずまつ毛がなげぇな」
「どうせなら全体的にイメチェンしようと思って。昔の人は染料で髪色を変えたり、色がついた『レンズ』っていうのを入れてたんでしょ。大変だよね。
目に異物を入れて一日過ごすなんて、私、絶対無理」
肩を竦めて歩き出す。
目や髪の特殊な色には閉口するけど、睫毛が長いのはラッキーだったと思う。
?「あのさ、俺、近々居なくなるから」
「は?なに突然。昨日、あんたのお母さんに会ったけど、何も言ってなかったよ?」
?「言ってないし」
「黙ってどっかに行こうとしてんの!?」
?「そんなにでっかい声ださなくても聞こえてる」
「急に居なくなったらおばさん心配するでしょ?どこにいくつもりよ?」
?「言えないとこ」
「真面目に答えて!」
?「本気だって、誰にも言えないとこに行ってみるつもりだ」
「頭が良すぎて、どっかに脳みそ落としてきたんじゃないの?
だいたい個人の足取りなんてすぐ掴めるんだからね。
500年前じゃあるまいし、『失踪』とか『行方不明』なんて無理なんだからね」
?「連れ戻されはしない。誰も追いかけてこられない道を通っていくから」
「誰も追いかけられない…道……?」
その表現に、数年前の記憶が呼び覚まされた。