第88章 幸せを願う
三成「朝日殿は………舞様だったのですね。
安土を去った後、なんらかの理由で再び時を超え、窮地の信長様と蘭丸様を救った…」
秀吉様に『10年後にもう一度調査団を』と頼まれていたが情勢が乱れ、病に臥したため派遣できないままだった。
もし派遣していたなら…会えたのだろうか。
そこまで考えハッと思い出した。
三成「遭難した調査団の日記……朝日殿の夫は……」
衝撃の事実に片手で口元を覆った。
『色違いの目は人を射殺せそうな迫力があり、刀のように研ぎ澄まされた気配はそら恐ろしく、いつ刀を抜かれるかと肝を冷やす。
だが人を惹きつけてやまない不思議な魅力を持っている御仁だ』
昔、まだ安土の参謀だった頃。
戦場で相まみえた『ある男』の風貌がそのままそっくりあてはまる。
遠目にも目立つ白馬に乗り、戦場を駆け抜け、静かなる闘志を宿した声は戦の喧騒の中でも、よく通った。
戦の才に恵まれ、矢も鉄砲も避けて飛ぶような人知を超えた男。
軍神 上杉謙信
三成「ああ、だからあなたはあんなに苦しんでいたのですね。
誰にも打ち明けられず苦しかったでしょう…?」
そっと新しい着物を撫でる。
舞様は別れの日、しきりに『私なんか』と口にしていた。
きっと私達と上杉謙信の間に挟まれ、後ろめたさと申し訳なさでいっぱいになっていたに違いない。
三成「あの時はあなたを失う恐怖で冷静をかいていました。
……察してあげられず、すみませんでした」
至らなかった若かりし頃の自分を責める。
あの日誌には朝日殿、つまりは舞様が皆に大切に守られていると書かれていた。
三成「二度と会えないと泣いていた愛する方と相(あい)まみえ、信長様達と一緒に居て……幸せなのですね、舞様」
(良かった…)
舞様はいつも輝くような笑顔を浮かべていた。
蝦夷の地で、今も変わらぬ笑みを浮かべているだろう。