第88章 幸せを願う
姫「ふふ、その本なら私が小さい頃落書きしたやつよ。多少破れても父上様は怒らないわ」
秀頼「そうおっしゃいますが内容は非常に珍しいもので、あ!姫様!それも駄目です!」
今度は5歳の長女が熱い湯のみに触れようとしている。
秀頼「徳生様!私はこの書物を運び出しますから、お子様方を見ていて下さい!
今、侍女達に声をかけてきますから」
三成「いえ、あなた様にそのようなことはさせられません。私が…」
秀吉様の忘れ形見に雑用をさせられない。
しかし断ろうとしても、いつも失敗してしまいます。
秀頼「お子様方と過ごす時を大切になさってください。
それに私の方が若いのですから力仕事は私の領分です」
三成「……それではお願い致します」
秀頼「私は徳生様について城にあがった家来なんですから、敬語も気遣いもいりませんと何度も申し上げております。
私は徳生様と家康様に仕えると心に決めておりますからね」
垂れ目を吊り上げて諭してくる様は、本当に秀吉様のようです。
秀頼様は本の山を抱えて部屋を出て、廊下に控えていた乳母や女中に声をかけて去っていきました。
三の姫「ふふっ、さぁ、一緒に着物を見ましょう」
三の姫様に手を引かれ、贈り物が入った箱の傍に座る。
子供達はそれぞれ自分の新しい着物を羽織って走り回り、部屋に入ってきた女中達がそれをたしなめ、追いかけている。
紫色、黄色、翡翠色の色合いが部屋を舞い、とても華やかだ。
三成「こら、政宗様からの贈り物を破るようなことをしてはいけませんよ」
子供達「「「はーい」」」
三の姫「なり様の着物はこちらです。藤の花が美しいですね。
これを縫ったのは伊達のおじ様が抱えている針子なのかしら…」
着物に無頓着な私でさえ一目でわかる。
花の先にむかって色が変わっていく巧みな色使いがとても繊細だ。
黒地の生地に藤の花が控えめに、でも幻想的に咲いている。
三の姫「この花を見ていると、なり様が昔お召になっていた紫色の着物を思い出します。
羽織ってみますか?もし丈が合わなければお直しさせましょう」
着ていたものを脱ぎ、妻の手を借りて袖を通した。