第88章 幸せを願う
(家康目線)
家康「政宗さんから贈り物?なんで?」
そろそろ仕事を切り上げるかという頃、奥州から使いが来た。
受け取った箱を開けると畳紙(たとうし)に包まれた夜着が入っていた。
家康「………なんで政宗さんから夜着を贈られなきゃなんないの」
政宗さんから贈られた夜着で寝たら、溜まった疲れが余計割り増すような気がする。
ため息を吐きながら添えられている文に目を通した。
『家康、息災にしているか?俺はまあまあ元気にしている。
出産祝いに三の姫の赤ん坊に着物を贈ろうと腕のいい針子に依頼したんだ。
そうしたら勝手にお前の夜着まで作ってしまってな、せっかくだから贈ってやる。
お前に似合いの色だな。
あとで娘夫婦の所にいってみろ。
その針子は徳生と三の姫、4人の子供。あと時継の分も縫い上げた。見事な出来だったぞ』
家康「随分とその針子をかってるみたいだけど…」
チラリと贈られた夜着に目をやる。
家康「……夜着は間に合ってるんだけど」
知らない針子に勝手に作られた夜着。
着る気にならず、夜着が入った箱に蓋をしようとした。
ふわ
家康「!」
焚いた香や練香でもない。南蛮人が身に纏っている香水と同類のもの。
きつすぎない香りは甘く爽やかな花のよう。
こんな珍しい香りはたとえ何十年たとうと忘れるはずがない。
「この香り……、まさかっ」
箱の蓋を乱暴に置き、きっちり畳まれた夜着を広げた。
まるで好みを知っているかのように落ち着いた色合いの芥子色。
生地に触れると肌触りがとても良い。
柔らかすぎると皺が寄りやすいものだけど、そこは柔らかすぎず固すぎずといった厚みと質感だ。
家康「今日の仕事は終いにする。自室に行くから何かあったら声かけて」
小姓「はっ」
簡単に夜着をたたんで箱にしまうと、それをもって自室に向かった。