第88章 幸せを願う
「あの…大丈夫ですか?」
香りを嗅いだまま動けなくなり、私を心配してお客様が声をかけてきた。
(いけない)
それからは頭を切り替えて、さっき嗅いだ香りをイメージしてアロマオイルをブレンドしていった。
何種類かサンプルを作成しても直ぐには納得がいくものができず、お客様の希望を教えてもらい、日にちを改めてもらうことにした。
その日の営業が終わり、心を落ち着けてブレンドしていく。
不思議なことに、あの香りを嗅いだ時のことを思い出すと、勝手に手が動いた。
沢山あるオイルの中から数種類を選別し、割合もそう何度も繰り返さないうちにイメージ通りのものができた。
こんなことは今までで一度もない。
断片的に見えた男の人が、私の中で確たる存在であるかのように、似合う香りが直ぐにわかった。
出来上がったアロマオイルを、薄氷を思わせる小瓶に入れた。
何故かはよくわからない。
でもなんとなくお客様のご主人にはこの色が似合う気がした…。