第88章 幸せを願う
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(??目線)
「すみません、相談したいことがあるんですけど…」
商品棚のチェックをしている時に、お客様に話しかけられた。
話を聞くと、旦那様に合う香りをブレンドして欲しいとのこと。
普段はお香をたいているそうで、お香の専門店を訪ね歩いても複雑に香を合わせていたらしく手に入らなかったとか。
それならいっそのことお香から離れてアロマオイルで表現したいと思ったそうだ。
(このお客様、旦那様のこと凄く好きなんだろうな)
説明している時も旦那様のことを思い出しているようで、頬を赤く染めている。
「主人の着物を持ってきているのですが、その……お嫌でなければ、お香の香りを嗅いで頂けないかと…」
お客様が申し訳なさそうに言い、手持ちの紙袋から着物を出そうとしている。
(え、着物?)
呉服屋さんにお勤めなのかなと思ったけど、茶道や舞、芸事で着物を着る男性も居る。
お客様の私物の香りを嗅いで商品を奨めることはたまにあることなので了承した。
「ありがとうございます。これなんですが…」
出されたのは白い着物と、黒の外套
(この……着物…)
初めて見るのに、それは確かにどこかで見たことがあった。
テレビやネットで見たのではなく、もっと記憶の奥深くに染み付いているような…
ひとこと『失礼しますね』と断りをいれて黒い外套を手に取った。
(手が……震えそう。なんだろう、この外套…このファーもどこかで……)
平静を装い、顔を近づけるとフワリとお香の香りがした。
(!!?)
断片的な何かが見えた。
白い肌、褪せた金髪……………………
(だ、れ?)