第88章 幸せを願う
秀吉が人形を持ってきた時に諳(そら)んじてくれた『のぶたん』の説明。
のぶたんは偉くて強くて頭がいい!
とっても怖いけど、実はとっても優しい心の持ち主。
金平糖が大好きで姫たんに時々お裾分けしてくれる。
姫たんはこっそり『お父さんみたい』と思っている。
姫たんを拾って守ってくれて、ありがとう
これを聞いた時は信長の死を一瞬忘れ、愉快な気持ちになった。
魔王と恐れられていた夫。
その本質を誰も気付いてくれないと悲しく思っていた自分にとって、あの言葉に胸がスッとしたのだった。
あれから30年…いや40年が過ぎたが、のぶたんと姫たんが日々可愛らしい姿で濃姫を見守ってくれていた。
濃「お会いしたかったです、舞姫…。
あなたが信長様に贈ったくまの人形は、私が責任をもってお預かりしております。
ご病気で突然国へ帰られたと聞きましたが、どうかお元気でいらしてくださいね」
濃姫は信長の正室であったにも関わらず、謎の多い人物とされている。
子を産んで直ぐに療養に出たため、実際信長の子を見た者はおらず、その事実は時の経過とともに無かったものとされた。
信長の死後、人知れずひっそりと生き続け、息子夫婦と孫達に囲まれて充実した道を歩み、その子孫は長く長く後の世まで続いた。
棚に飾られた二体の人形は濃姫が天に召された際、遺言通り遺体とともに荼毘に付されたという。
信長様…あなたは『愛とは何か、わからない』
そうおっしゃっていましたね
私はあなたに出会えて、子を授かり……幸せでした
愛がわからないと言っていた信長様に、私は人を愛することを教えて頂きました
どうか信長様と私の子らに幸せが訪れますように…