第87章 この命、尽きるまで
潮風になびく薄茶の髪にはもう何年も、ずっと光秀さんの織り紐が結ばれている。
船旅でわるたんをなくさないようにと、背中には光秀さんの革袋を背負っている。
龍輝「母さんにかっこいい服を作って欲しいってお願いしたんだ」
私に似た薄茶の目が、まん丸に見開かれた。
結鈴「ずるい!ねえ、ママ、結鈴はあっちに行ったらスカートはきたい」
結鈴はまだ『ママ』って呼んでくれる。
年相応にお洒落に目覚め、最近は着る物を選ぶのに時間がかかる。
「はいはい、スカートでもワンピースでも作ってあげるよ」
瑞穂「ママ……お袖に、何か入ってる」
私に甘えるように袂を掴んでいた瑞穂が、何かをゴソゴソと取り出した。
「あれ。こんなところに金平糖なんか、入れたっけ?ん?あれ…でも…。
そう言えば、夢を見たような…?????」
瑞穂「ママって時々忘れっぽいよね」
結鈴「うんうん」
龍輝「うん」
「う、否定できない…」
謙信「お前達、風にあたり過ぎると身体に触るぞ」
低い声に耳がくすぐられる。
誘われるように振り返ると謙信様が立っていた。
洋服に着替えるのは下船直前でいいと、いつもの着物姿だ。
強い日差しの下、透き通るような肌が鮮明に白さを主張し、二色の瞳が光を強くはね返している。
立っているだけなのに不思議とその存在に惹きつけられた。
(かっこいいな、謙信様)
「謙信様」
謙信「どうした?」
(子供たちの前なのに大好き、って言いたくなっちゃった)
「いえ、なんでもっ、わっ」
もじもじしていると、びゅうっと強い風が吹き、私の髪が謙信様の方になびいた。
(あ……)
既視感が襲った。