第87章 この命、尽きるまで
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佐助君がヨーロッパから帰ってきて2週間後。
頭上には気持ちの良い青空が広がっていた。
龍輝「もう港があんなに小さくなったね」
「うん……」
騒ぐ龍輝の隣で、私は胸を詰まらせていた。
考えに考えた末、皆一緒にヨーロッパに発つことにした。
蝦夷での暮らしは穏やかで平和だったけど、信長様が提案してくれたお仕事は私にとっても謙信様達にとっても魅力のある話だった。
考え、迷っていた私に、謙信様は『舞の才能をこの地で埋もれさせたくない』と強く背中を押してくれた。
自分の生きがいとは別に、子供達にも外の世界を見せたいという気持ちもあった。
現代のようにインターネットやテレビで外国の情報や文化を得られないこの時代では、視野が狭くなりがちだ。
長い旅路やヨーロッパの不安定な情勢が心配ではあったけど、旅立つことに決めた。
もう日本には戻って来られないかもしれない。
見納めになるかもしれない。
そう思うと胸がいっぱいになった。
蝦夷と、海を挟みうっすらと霞んで見えるのは本州。
そこには政宗や家康、三成君達が生きている。
皆に仕立てた着物類は今頃政宗に届いた頃だろうか…。
(皆…頑張って。どうか平和な日本を築いてください)
500年後の日本で眠る両親、祖父母、出会った人達を思い浮かべては寂しさが募った。
それを打ち破ったのはやっぱりというか隣に居た龍輝だった。
龍輝は現代にいれば中学校に通っている年齢だ。
いつの間にか『ぼく』が『俺』に変わり、『ママ』は『母さん』に変わっていた。