第6章 看病四日目 二人の香
(謙信目線)
(看病4日目)
謙信「遅い………」
つい呟いた一言に佐助が即座に反応した。
佐助「道が悪いからでしょうけど、それにしても遅いですね」
米が炊きあがっても舞が来る気配はなく、残っていた食材で適当に朝餉を作って食べたが、後片付けを終えてもまだ舞が来ない。
(もしや昨日のことを気にして今日は来ないか。いやあの女は何も言わずにこなくなるような無責任なことはしない…)
謙信「佐助、今朝の分の薬湯だ。飲め」
横になっていた佐助が身体を起こして薬湯を飲み、首を傾げた。
佐助「謙信様、いつもより苦いのですが量を間違えていませんか?」
謙信「一回分ずつ薬包紙に包まれているのだから量を間違えるはずないが…」
佐助「なるほど、この薬湯は謙信様が淹れると苦くなるのか」
興味深げに手の中の湯呑を見つめている。
謙信「無礼極まりないな。お前が望むなら即刻首をはねてやるが…?」
俺に薬湯を淹れさせておいて文句を言うとは、気に入らん。
恋仲の舞が用意した方が飲みやすいと惚気られているのと同じだ。
佐助「すみません。同じ薬なのに用意する人が違うと味がこうも変わるのかと感心しただけです。
安土で仕入れた酒を越後で飲んだ時の謙信様の気持ちがわかりました」
怒りがすっと消え去った。
謙信「何のことだ?薬湯と酒の味になんの関係がある?」
佐助「自力でわかって欲しいので教えません」
謙信「……教えぬのなら最初から黙って飲め」
佐助が言わんとしていることがさっぱりわからない。
薬湯を飲み終えた佐助は横になりすぐにまどろみ始めた。