第6章 看病四日目 二人の香
鼻をすすってそのまま縫物をしていると謙信様が動いた。
謙信「気付かなくて悪かった。そのままでは寒いだろう」
「え?わわっ!」
ばさりと肩に黒の外套がかけられる。
いつか触ってみたいと思っていたモフモフした素材が首に当たってくすぐったい。
焚き染められた香の他に、謙信様の男っぽい香りがした。
(どどどどどど、どうしよう!?心臓が壊れるっ)
どうしようと言いながら、通常よりも深く息を吸い込んで香りを楽しんでしまう。
私ってこんなに変態気質だったんだと心の中で叫ぶ。
謙信「ついでにこれも履け。大きいだろうが留め具をすれば脱げることはなかろう」
またしても寝室に行って戻ってきた謙信様が寄こしたのは足袋。
「だ、大丈夫っ…て、何してるんですか?」
流石に足袋まではと断ると、謙信様が私の裸足に触れた。
謙信「やせ我慢せず履け。女は身体を冷やしてはいかん」
「っは、はい!」
ジロリと睨まれてしまえばその迫力には抗えない。
女嫌いなのに気遣ってくれてる!なんて考えながら、恐ろしく手触りの良い足袋を履いた。
(わぁ、謙信様って足大きいな)
私より3~4センチ大きいのかもしれない。
布が余ってダイビングのフィンみたいになっているけど、座って縫物をしている分には支障はない。
改めて身体を見下ろすと黒い外套とぶかぶかの夜着、幾重にも巻かれた長い帯、脱げそうなくらい大きな足袋。
(謙信様のトータルコーディネート、夜ver.だ!)
恥ずかしいとか、サイズ全然合ってないとか忘れて、気分が高揚してくる。
「温かいです。ありがとうございます」
謙信「風邪をひかれては困るからな」
腰を落ち着けて謙信様は筆をとり、私も縫い物にとりかかる。
外套と足袋のおかげでさっきより断然温かい。
(謙信様って言い方ややり方はそっけないけど、女性に対して凄く紳士的だな)
そういえば一緒に歩いた時は歩調を合わせてくれたり、手を繋いでくれた。
思い出すと胸がくすぐったい。
それぞれの作業に没頭して心地良い沈黙に包まれる。
ハサミを取ろうとすれば夜着の袖が上がって腕が覗き、動くと外套のフワフワが柔らかく肌を撫で、謙信様の香りが身体中を包み込んでいる。
幸せだなぁなんて、今日だけの特別な状況を愉しんだ。